十河信ニとその時代 上下巻 牧久著 ウェジ出版 [鉄道本]
この本を読むきっかけは、とあるテレビ番組で新幹線敷設の物語を見たことだ。
その中で、十河氏の辣腕振りが紹介されていた。71歳で総裁就任。新幹線計画時の予算では通らぬと半額で申請し通す、などさぞかし国鉄生え抜きで人望もあり、国鉄の処し方に慣れている方なのだろう思い氏の生き方に興味を持ったのが始まりだ。
私は本書の前に、十河氏自伝(本人は、自伝ではなく、むかし話と謙遜)である、有法子を読んだ。
そこで、初めて、40代に汚職疑惑で国鉄を放免されたことや(判決は無罪)、その後の満鉄勤めや、中国との経済的架け橋である興中公司の社長の就任などを知る。有法子では、それを付き合いのあった人と共に描いているのだが、それがまた面白い。加えて本書を読むことで、人物像に厚みを加えて理解することができた。例えば、種田虎雄氏は(大学の同級、近鉄初代社長)十河氏が放免され浪人となった際に給料袋を持参、半分置いて行ったとの話である。本書では種田氏は、さらに十河氏のために特別弁護人になったが、国鉄の局長職を辞し弁護に専念。75名の嘆願書を集め、「真の友情は存在するかという友情裁判」(上巻より)に持ち込んだと記され、より深い関係であったことがわかる。お時間のある方は、これら三冊を、まとめ読みをお勧めします。
さて、有法子が書かれた時期は、氏の総裁在任中だった。よって総裁時の話は無い。しかし本書では総裁時の話題も掲載されている。"線路を枕に討死の覚悟 "などの名言や、新幹線実現に向けた動きなど、当時の論評を交えて紹介している。(下巻)
これを読むと鉄道というのは国家プロジェクトであり、政治の道具なのだと切に感じる。
そして国鉄総裁というのは、経営者であり官僚である処し方がデリケートなポジションだと痛感する。そこを十河氏は、満州で鍛えた有法子(まだ 方法がある、もっと努力しよう)力で、新幹線プロジェクトを内外で粘り強く説明、啓蒙していきながらも、予算どりでは、慎重に政治的なタイミングと根回しを図るというやり方で、まとめていく。その進め方は、書前半の満州での苦悶を経て得たものでり、後半の活躍は、痛快とさえ感じてしまう。というのも本書は2/3を割いて、満州での出来事を開設し、さらにその大半を割いて周囲の歴史の動きを書いるからだ。個人的には総裁話は、未だか未だかと焦らされてしまったので、余計そう感じたのかもしれない。
氏の郷里である、JRの伊予西条駅には、十河信ニ記念館があるという。機会を作り、是非訪れたいと思う。