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昭和の鉄道風景 南正時著 実業之日本社 [鉄道本]

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今回紹介する本は、ケイブンシヤの鉄道大百科シリーズでお馴染みの、南正時さんの著書だ。本の出版されたのは2008年。はじめにでは、「0系が新幹線が引退するいま、(中略)私の個人史に足場を置きながら、写真と共に語ってみようと思う。」と前置きされている。


事実、0系は出版年の2008年に引退した訳だが、この本では新幹線開業を起点にして、平成の初期までの、著者の鉄道にまつわる思い出を著者の歩みとともに綴っている。


内容は、国鉄から地方私鉄までを簡潔な短文で綴られており2、3時間もあれば読み切れてしまう。
そして、昭和40、50年代のことが多く語られているが、個人的には583系や食堂車の思い出、日中線、鹿児島交通や、瀬戸電の描写が面白かった。


さらに、”581系「有明」では、主張中のある学習誌の編集長と、指定席で偶然隣り合わせとなった。”
とあり、ここから大百科シリーズが生まれた言う。何か、581系の独特な車内の雰囲気と合わせて、
会話の様子が頭に浮かんでくるとは、言い過ぎであろうか。


いずれも、数ページながら心情を交えた端的な描写が創造を掻き立てる。
この「後は読者の皆さんよろしく」感が、百科シリーズにも通じるものだろうか?
タイトル通り、昭和の鉄道の風景をダイジェストで振り帰るには良書である。

0系新幹線から始まる 昭和の鉄道風景 (じっぴコンパクト)

0系新幹線から始まる 昭和の鉄道風景 (じっぴコンパクト)

  • 作者: 南 正時
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2008/10/31
  • メディア: 単行本


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富士急の駅のよもやま ハイランド駅と葭池温泉前駅 [JITOZU_施設]

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参照MAP


なんだこの写真は?
富士急が、南武線並みに混んでるぞ。と思ったら、欅共和国という、けやき坂46のライブイベント後の様子だ。今年は、3日間でのべ、4万5千人の人出だったらしい。


同イベントの鉄道の利用人数は、分からないが、富士急にとってもうれしい悲鳴だろう。私が、当駅を利用したことがあるのは、富士急ハイランドにスケートに行った時のことだ。しかしながら、駅の印象が全くない。富士急のホームページによると、当初は、ハイランド駅として開業した当駅は、日本で初めてのカタカナ名の駅とのこと。


富士急のホームページ


そもそもハイランドは、英語で高原、高地などを意味する。ランドは”国”という意味と掛けていると思うが、そのままだと富士急高原である。なかなか、思い切った名前だ。


私が思い入れのある富士急線内の駅は、葭池(よしいけ)温泉前駅だ。温泉に入る為に行ったのだが、駅は温泉駅の名に似つかわしく無い一面一線の無人駅。降りた瞬間、不安な気持ちになる。周りには人家があるが、人気は無い。駅から5分ほど歩くと鬱蒼とした林の中に温泉があった。
創業安政三年という超老舗だが、ここでも驚かされた。温泉は、着替え場と洗い場に仕切りがないのだ。そして、五人ぐらいで一杯になってしまう浴槽。熱い湯に水位なのか温度なのか忘れてしまったが、自動的に水が足される。また、広く落ち着く座敷は、昔は宿だった事をうかがわせる。
味のある温泉体験に、ぜひオススメである。


葭池温泉ホームページ


話がだいぶ飛んでしまったが、富士急の駅は味わい深い駅多いので、またゆっくり訪ねてみたい路線だ。


ビジネスホテル富士見

ビジネスホテル富士見

  • 場所: 山梨県富士吉田市下吉田6199-4
  • 特色: 雄大な富士山を望みながら1日の疲れを癒して下さい。富士急ハイランドへは車で約10分。


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父・宮脇俊三への旅 宮脇灯子著 角川文庫 [鉄道本]

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この本は、鉄道の旅を中心にした紀行作家、宮脇俊三氏のご令嬢、灯子氏が、宮脇氏の逝去の三年後に書かれたものだ。内容は、氏にまつわる話を集めたエッセイ集である。


本書の中で、私が一番興味があったことは、
鉄道紀行文を文学にまで高めたその流麗なる文章は、どのように生まれてきたのかという点だ。


当本によれば、それは、深夜酒とともに生み出された様である。全ての作品がそうなのかは分からないが、”書斎でちびちびやりなが書いていた”とのこと。
しかし、六十を超えたあたりから、”筆力がおち、酒の力を借りて書くようになった”そして、齢とともにアルコールへの依存が進み、1999年、72歳ごろに 休筆宣言をしている。
例え、才能があろうとも文章を書くということの大変さが分かるエピソードだ。


その他に本書では人間味のある、ちょっと拘り屋のお父さんとしての氏の姿が描かれている。
例えば、子供達から贈られた人形を鞄に入れて旅していたことや、野球好きが奏して、強かった池田高校の校歌を、録音し父娘で暗記したことなど、作品からは窺い知れない、ユーモラスな一面も多く取り上げられている。
何かそこに、氏の文章に時々顔を出す、とぼけた人間味や、几帳面さを感じてしまうのだ。


この様な種類の本は、好き嫌いあるとは思うが、氏の作品の新たな味わい方の添えにいかがだろう。





父・宮脇俊三への旅 (角川文庫)

父・宮脇俊三への旅 (角川文庫)

  • 作者: 宮脇 灯子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2010/02/25
  • メディア: 文庫


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向ケ丘遊園駅 駅舎に見る 田園都市思想 [JITOZU_施設]

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参照MAP
写真は、小田急電鉄の向ヶ丘遊園駅の写真である。かつては、向ヶ丘遊園という遊園地があった。今は、その名を駅のみが残している。当駅は、線路を挟み反対側にも改札が、ご存知だろうか。私としては、そちらの改札をお勧めしたい。それはなぜか?



この駅舎を見て頂きたい。昭和2年の開業当初より使われている建物だ。

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著者撮影



この独特の屋根は、建築的にはギャンブレル屋根と言うらしい。近隣の同系の駅舎として東急の田園調布駅があるが、こちらは、マンサード屋根と呼ばれ、形式が異なるそうだ。異国情緒溢れる建物だが、なぜここにあるのだろうか?


鉄道ジャーナル12月号の記事、
木造駅舎の証言によると、この駅舎は、ハワードの田園都市論の影響があると言う。
つまり向ケ丘遊園は田園都市計画の一端を担う予定だったのでは無いかと。真偽のほどは確認が必要だが、こちらも田園調布の開発と同じ思想だ。もっとも田園調布駅の開業は大正13年なので、いくらか、向ケ丘遊園の方が後輩だ。


現在、当駅周辺は、田園調布駅で成功した田園都市構想の印象は、あまり無い。しかし駅舎は現役であり、当時の小田急の拘りをシンボリックに主張している。何か時代錯誤な印象も受けるが、向ケ丘遊園という東京でもなく遊園も無くなり名前だけ残る当地では、却って良いのかも知れない。


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15歳の機関助手 川端新二著 交通新聞社新書 [鉄道本]

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今夏の国際模型コンベンションにて、川端新二さんの講演を聴講した。
“シリーズ乗務員が語る蒸機時代4”という演目で、川端新二氏、宇田賢吉氏、大山正氏という構成でそれぞれの経験、思いを語って下さった。

私の川端さんとの出会いは、川端さんの著作、”ある機関士の回想”という本を、図書館にて偶然見つけたことから始まる。

この本は、川端さんの経験を詳しく書いたもので、当時、鉄道に関する書籍を読み始めたばかりの私は、乗務員視点の精緻な文章に感銘を受けた。そこには、写真だけだは分からない、時間軸を持った記録がある。

今回取り上げる本は、川端さんが、”ある機関士の〜”とは異なる視点で書かれたものだ。
それは、戦中という現代からは想像がつきにくい環境での乗務記録だ。

先の講演でも触れていらっしゃったが、米軍機の機関車への掃射、空襲による被害と職員殉職、戦後の石炭の質の悪化など、機関車を動かすだけでも一苦労なのに、さらに困難な状況に直面する。そういった体験が淡々と語られていく。

そんな状況を体験してもなお、氏はなお、”あの激動の時代、蒸気機関車に乗って懸命に働いたことは、誇りであり心の大きな財産”と言う。

それは、あの時代を生き抜いた人にしか言えない事かも知れないが、文字によって追想できることは、私たちにとって幸運なことだと思う。



15歳の機関助士―戦火をくぐり抜けた汽車と少年 (交通新聞社新書)

15歳の機関助士―戦火をくぐり抜けた汽車と少年 (交通新聞社新書)

  • 作者: 川端 新二
  • 出版社/メーカー: 交通新聞社
  • 発売日: 2012/12/01
  • メディア: 単行本



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C56 ポニーが醸し出すもの [JITOZU_車両]

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参照MAP

写真は、SL北びわこ、現役時代のC56だろうか。湖北地方の観光振興を目的に、1995年より運行を始めたのだそう。この小さき機関車で5両の客車を牽引しながら、20kmほど走る。しかも本線走行だ。C56ことポニーとしては、大舞台であったことは間違えない。


さて、このC56だが、北びわこ号の160号がラストナンバーと言われるが。日本の蒸気機関車(ネコパブリッシンング刊)によると、編入機4両を含め164両製造されている。この編入というのが、樺太でC52形を名乗のりその後、C56 161-164に戻された車両だ。この他、雄別鉄道の1001号がある。
160号機をラストナンバーと呼びつつも、歴史に翻弄された4機のことも忘れてはならない。


特に、蒸気機関車(小学館刊)には、”簡易線区用としての優秀機は、軍の眼鏡にかなわぬはずはない。”と書かれている様に、90両もの仲間が、戦地となった、当時の統治地域に転出して行った。


C12同様に万能機を目指した同機は、全溶接ボイラーや後方の見通しを考慮した、スローピングテンダーの採用など画期的な、車両として登場した。
特に、少し角度のついたキャブ前面は、この可愛らしい機関車に少しの力強さを加える程よいアクセントになっている。


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著書撮影


均整のとれたボディは、高原のポニーとして人気を博したが、その裏では地味な活躍で日本の簡易路線を支え、海外でも日本のために活躍した当機。この釜の魅力は、そんな両面にあるのかも知れない。




日本の蒸気機関車

日本の蒸気機関車

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ネコパブリッシング
  • 発売日: 1994/10
  • メディア: 単行本
蒸気機関車―日本編 (1981年) (万有ガイド・シリーズ〈12〉)

蒸気機関車―日本編 (1981年) (万有ガイド・シリーズ〈12〉)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1981/08
  • メディア: -


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私鉄のターミナル物語 藤本均著 たちばな出版 [鉄道本]

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本書は、私鉄のターミナルの変遷を史実に基づいて紹介したものだ。それは、例えば、”国鉄など先行鉄道との関係”のように、事実情報がテーマごとに書かれているものであって、何故そうなったかといあ点には触れていない。それが、物足りなさを感じさせる。


しかし、最終章の”私鉄ターミナルのゆくえ”では、著者は、洞察のある指摘をしている。”ハード的にはスルー化、ソフト的には多様化が進む”というものだ。


ハード的なスルー化とは、鉄道輸送の量から質への変化、すなわち、直通乗り入れの増加のことであり、ターミナルは、本来の性格を失い、スルーされる存在になるということ。そして、それは、かつての郊外電車と市内電車の直結した形であること。


ソフト的な多様化とは、本書の出版された20005年当時は、隆盛を極めたパスネットを取り上げ、このまま進むと、通勤の行きと帰りで異なる路線を選択できるという多様性に対するニーズが生まれるのではという論である。


ハード的なスルー化は、現在着々と進んでおり、東京近郊のその代表格は、東急であろう。本書でも、著者の弁を代表する形で取り上げられている。すなわち、市内電車の玉川線から地下化工事を経て郊外線になり、その後、半蔵門線に次いで東武に乗り入れスルー化を達成した。
ソフト的な多様化の面では、パスネットに次いでSuica、PASMOの共通利用サービス、そして全国レベルで交通系ICカードの共通利用に発展した。


今では、いずれも著者の論の通りとなった。
さて今後はどうか。
より正確に安全に快適にをモットーに高架化、自動化が進みつつ、
通勤人口の減少による減益、その先に経営統合、合併劇...だろうか?


私鉄ターミナルの物語

私鉄ターミナルの物語

  • 作者: 藤本 均
  • 出版社/メーカー: たちばな出版
  • 発売日: 2005/06
  • メディア: 単行本


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ロマンスカー LSEのLuxuryとは。 [JITOZU_車両]

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参照MAP

先日、この写真の小田急のロマンスカー7000形が定期運用から引退した。
写真は新宿駅における、ホームライナーの様子であるが、引退最終列車もホームライナーであった。

愛称をLSEとしたこのロマンスカーのLはLuxury、すなわち”高級”だ。当時は、聞きなれなかったこの単語を使うとは、小田急の意気込みを感じる。以下の記事では、その理由の一端が明かされている。



小田急ロマンスカー「LSE」38年の豪快な疾走


これによると、小田急は新宿、小田原間の60分運転を目指していたが、時代が変わり、
“2分や3分速くするよりも本数を増やして乗りやすくする、そして快適に乗れる、そういう方向に流れが変わっていたった”とのこだ。


また、保育社発刊の私鉄の車両 小田急編によると、当車両は、“より斬新なスタイル、優れた居住性、(中略)機能性の追求した設計とし、将来の乗客ニーズ十分対応でき、21世紀も通じる車両を目指した。”とある。設計時から、将来ニーズを考慮していることが、後輩のHiSEやRSE以上に活躍できた理由だろうか?

確かに、LSEの車内は、シンプルそのものだ。


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著者撮影


ここでいうLuxuryというのは、車窓と一体になる事のように思える。車内の装飾は、素材は良いものを用いながらも最低限に抑え、かつ大窓を採用する事で風景が、車内のインテリアの一部になっているような感覚を、覚える。加えて、連接構造がそれを強調する。連接構造によりデッキがない状態となるため、風景が車両を跨いで、次から次へと飛び込んでくるのだ。


こうした装飾の美とは異なるLuxury感の演出は、次世代のロマンスカーにも受け継がれていると思う。それは、VSE以降のデザイナーとして岡部氏を起用していることからも感じられる。
本系列が、無くなることは非常に寂しいが、今後も、その伝統を引き継いで行って欲しいと願う。


小田急電鉄(私鉄の車両2)

小田急電鉄(私鉄の車両2)

  • 作者: 飯島 巌
  • 出版社/メーカー: ネコ・パブリッシング
  • 発売日: 2002/07/01
  • メディア: 単行本


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日比谷線車両の思い出 [JITOZU_車両]

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参照MAP

この写真は、大倉山駅にて停車中の営団03系写したものだと思われる。
写真の日付は、2013年3月14日。もし、撮影日=掲載日だとしたら15日の直通運転終了の
前日に撮られたカットになる。


撮影者は、思うところがあったのだろうか?


私は、鉄道の”廃止”という事件に目がない。
最近は、ご無沙汰ではあるが、時間が許せば、その現場になるべく足を運んできた。
そんな人を雑誌ブルータスの鉄道特集では、葬式鉄と呼んでいたが、ただ単に悲しむのではなく、自分の記憶に、そこに存在した物や時間を留めておきたいのだ。


しかし日比谷線のそれは、心にあまり響かなかった。直通運転廃止の理由は、直通先の東横線内ホームドア設置により、日比谷線の18m5ドア車とマッチしないこと、副都心線の乗り入れによるダイヤの過密化という何か、日比谷線が邪魔者扱いされている感じが、嫌な感じがしたのだと思う。


話は代わるが、写真の03系が登場し、初めて遭遇した時の感想は車みたい、だった。内側に傾斜したフロントガラスや、四角いライトが新しいというよりトラックを想起させた。この写真を見て、そんなことを思い出したが、最近登場した13000系もライト周りがフロントグリルを囲む、ホンダの軽自動車にあるようなデザインだ。3000系はどうだったか?マッコウクジラと呼ばれたこの車体は、車とは似つかないワイルドな顔だったと思う。

鉄道車両は、車に比べ長く使われる。
そのデザインも、ロングライフに耐えうるデザインであって欲しいと願う。


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立腹帖―内田百閒集成〈2〉内田百閒著 ちくま文庫刊 [鉄道本]

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ちくま文庫の内田百閒集成シリーズの中で、鉄道にまつわる随筆をまとめたのが本書である。百閒先生と言えば、阿房列車であるが、収録させれている作品の調子は、阿房列車のそれと変わらない。

しかし、阿房列車にはない可笑しみや哀らしさがある。それは本書にある随筆が、より人々や光景に焦点を当てているからではないだろうか?

個人的に一番面白っかた作品は、時は変革である。タイトルには、それなりの含蓄があるが、内容は、百閒先生が東京駅一日名誉駅長を勤めた時の話である。その際、発車させるはずの大好きな”はと”に乗り込んでしまった話は、あまりにも有名であるが、本作には、予め周到に用意していたことや、童心のような心情が、おもしろおかしく書かれている。

“しかし駅長がその職場を放棄し、臨機に職権を拡張して、勝手な乗車勤務をすると云う事は、穏やかでないから、秘密にする。”

また、直前に知らされた、国鉄職員の方が、群衆に向かって”名誉駅長は職場を放擲して行くと云うのです。皆さんどう思いますか?”
と尋ねると賛成、賛成と声が上がる場面など、改めて百閒先生は人徳に支えられているのだなと感じさせられる。さすが、公に認められた乗り鉄である。

因みに、タイトルの”時は変革す”とは、当時の国鉄総裁が戦争近辺では、鉄道はサービスすべきでないと言っていたのに、戦後、サービスが絶対と言い出した事に対して、人の世の変転を感じたと云う事だ。
それだけなら、ああ、そうかもねで済んでしまいそうだか、それに止まらないのが百閒先生の根性だ。名誉駅長の訓示にて痛烈にその矛盾を指摘した。職員が鉄道精神を逸脱して、サービスに走り、その枝葉末節に拘泥し、勤めて以って足りるとするのならば、鉄路の錆と化すであろうと。
もちろん、百閒先生は、サービスは必要なものとの立場からの発言である。

名誉駅長の経緯が面白く、その話ばかりになってしまったが、いずれの収録作品からも時代の空気を感じることができ、鉄道本好きには堪らない。間違えなくお勧めの本だ。


立腹帖―内田百けん集成〈2〉 (ちくま文庫)

立腹帖―内田百けん集成〈2〉 (ちくま文庫)

  • 作者: 内田 百けん
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2002/11/01
  • メディア: 文庫



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