「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか―日本文学の中の鉄道をめぐる8つの謎 小池滋著 早川書房 [鉄道本]
この本では、日本文学に登場する鉄道に関わる記述を取り上げ、考証を行うというスタイルで書かれている。
著者は英文学の研究者だが、この本では研究者的視点に想像力を交え、割りとくだけた文調で書かれている。それが、氏の仮説を程よい距離感で受け入れらる空気を作っている。
肝心の内容だが、先ずは、本のタイトルにもなっている"坊ちゃん"の松山を離れた、その後についての論考だ。
かいつまんで言うと、漱石先生の坊ちゃんでは、"その後ある人の周旋で街鉄の技手になった。月給は二十五円で、家賃は六円だ。"
と記載されているが、著者は、なぜ技手になったのか?を作家サイド事情から探っている。
それは、漱石先生が一番利用した街鉄、それを、当時、"文明開化の先端を行く市内電車"は、"物理学校出の天才の就職先"としてふさわしいものとして選んだというのが著者の論考である。
このような具合で8編の作品を取り上げている。
その中で私が気になった文章は、著者をして通勤電車小説の元祖と言わしめる田山花袋の少女病に対する論考、"電車は東京市の交通をどのように一変ささたか"と、永井荷風のぼく東綺譚に対する論考、"どうして玉ノ井駅は二つもあったのか"だ。
前者は、田山花袋の他作品で使われた"郊外の人"という言葉から、作家の時代を先行く先見性に注目し、その視点の延長に登場間もない通勤電車を題材にした少女病があるという。
後者は、昔あった京成と東武の玉ノ井について、荷風の趣向や地域性を交え、その歴史と作品に用いられるメタファーを、さりげなく解説してある。
何れにしても、本作では、作家の視点が大事にされており、そこからの仮説立てが面白い。
鉄道好きであれば、文学に登場する鉄道に、それはどうかな?といちいちツッコミを入れた経験は、一度ならずあるだろう。この本は、そんなツッコミをわざわざ調べてくれた痒いところに手が届いた本なのかもしれない。
「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか―日本文学の中の鉄道をめぐる8つの謎
- 作者: 小池 滋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/10
- メディア: 単行本
駅名標はおもしろい [JITOZU_施設]
参照MAP
写真は、ひたちなか海浜鉄道の阿字ヶ浦駅、駅名標だ。なんとも、個性的な駅名標だが、このようなものがあるとは知らなかった。
調べてみると、小佐原孝幸さんというデザイナーが、同鉄道の活性化の一環としてデザインしたものだそう。コンセプトは見ての通りの地域の名産、名勝を表意文字の図案として取り入れることで、
アピールするというものだ。
氏曰く
デザインの力が社会に対してできることはまだまだたくさんあります。(中略)地域の魅力は地元の人にとっては「当たり前」で、気づいていないことも多く、外部の人間のほうが魅力に気づくということもあります。そう考えると、ひたちなか市に縁もゆかりもない自分が関わった事にも意味があったのかなと思います。とのこと。
引用元 Creator' Station より
実際、写真の駅名標からも当地の名物を読み取ることができるし、2015年のGマーク受賞など、メディアへの露出により、同鉄道の知名度アップへも貢献しているだろう。
私は、どちらかと言うと乗り鉄だが、駅名標は、乗り鉄にとって車両とともに路線の変化を感じる大切な情報だ。見慣れぬ駅名標からは遠くに来たと実感し、お馴染みのそれを目にすると安心感が湧いてくる。ともあれ、ついつい見てしまうのが、この駅名標だ。
以前は、それを利用した看板もよく見られた。個人的に頭をよぎるのは、縦書きのホーロー板の下の、"本場の味 サッポロビール"の看板である。これを見ると、あぁ、北海道に来たのだと実感できる。
苫小牧にて、撮影著者。
それから、最近気になっているのが、日豊本線の宇佐駅の駅名標だ。
宇佐は、ローマ字表記でUSA。それを利用したアメリカ国旗を模した名勝案内図。しかも、積極的に宣伝しないところが、感じ入る。
参考 ねとらぼの記事
ひたちなか海浜鉄道の様に、分かりやすいのも良いけど、個人的には宇佐駅の様に、ちょと仕込んである方が好みというのは、ネタを喜ぶ鉄道好きの性であろうか?