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汽車旅12ヶ月 宮脇俊三著 潮出版社 [鉄道本]

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この本が書かれた当時、著者は、国鉄線完乗、最長片道切符の旅制覇し、"つまり、私の遊びの対象が失われた"状態であった。


しかし、本の執筆にあたり各線の乗り直しを行うことで、"実に数多くの要因によって、それぞれの線区の印象がちがうこと"に、改めて気がついた。


そして、"四季折り折り七色に装いをかえる多彩な国土を恐れぬ、不遜な感懐であった"
と自らを諭し、四季折々の鉄道旅の風情を取り上げたのがこの本だ。


昭和54年に発刊した当本の内容は、現在からすると、当然のごとく古い。しかし、昭和生まれの私からすれば、著者の観察眼と文章のリズムから当時の様子が生き生きと伝わってくる。また、ページの端々に話題に関する路線図が掲載されていて、現代との比較に事欠かない。当時は、清水港線など盲腸線がまだまだ健在で、羨ましくも、楽しくも読める。


文書表現は、ちょっと諧謔的な表現もあるが、これは百間先生からの鉄道紀行文の伝統と思えば良いのではなかろうか。


そんな中、個人的に文中の著者の言葉に目から鱗ともいうべきものがあった。


"移動のための手段である限り交通機関は「文明」でしかない。それに対し、手段を目的に置き換えることによって汽車や船が「文化」へと昇華してくる"


鉄道趣味は文化である。私たちは文化の担い手である。おこがましくもそう考えれば、散財し時間も浪費をして家人に目をつけられようとも、少しは救われるのではないだろうか。


汽車旅12カ月 (河出文庫)

汽車旅12カ月 (河出文庫)

  • 作者: 宮脇 俊三
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2010/01/06
  • メディア: 文庫


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熊本の甲子園 [JITOZU_施設]

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参照MAP


写真は、2017年に撮影された熊本駅である。
1991年に水戸岡氏の手によりデザインにより改築された。


前回取り上げた、氏の著作、電車をデザインする仕事によると、そのモチーフは甲子園球場だそうだ。その理由は、"そのときに壮行会を熊本駅で行なったのですが、大勢の人が押し寄せたために選手たちがまったく見えなかったのです。そこで、「(中略)駅にお立ち台を作ってあげよう」"ということから、甲子園球場に因んだ建物としたらしい。


中川理氏の著作、偽装するニッポン: 公共施設のディズニーランダゼイションでは、その土地の名産や名物を積極的に駅舎と取り込んだ公共建築を建築のディズニーランド化として扱っている。
代表的なものとして、五能線の木造駅の土偶駅舎などである。


写真の熊本駅も、そうなのかな?と思ったが、ちょっと違う様に思う。
甲子園球児を、駅舎上に立たせたい。その発想は、地域広報という観点を超え、甲子園球児=地域一丸となって応援する対象という普遍的なテーマを扱っている。
それは地域の内部から生じる特産、名産とは異なり、駅前の高校球児パレードを見たデザイナーの、やっぱ高校野球でしょといった外野からの指摘だ。そこが、ディズニーランダゼーションと一線を画す所以ではないだろうか。
その指摘を、ストレートに表現すると甲子園球場がモチーフになるのだろう。


しかし、歴史的な建造物をモチーフとした建物は多々あるが、球場がモチーフとは、聞いたことがない。しかも言われないと気がつかないほどである。
そういった意味で、"何だか気になる"ことが、この駅舎の目的なのかもしれない。



電車をデザインする仕事: ななつ星、九州新幹線はこうして生まれた! (新潮文庫)

電車をデザインする仕事: ななつ星、九州新幹線はこうして生まれた! (新潮文庫)

  • 作者: 水戸岡 鋭治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 文庫
偽装するニッポン―公共施設のディズニーランダゼイション

偽装するニッポン―公共施設のディズニーランダゼイション

  • 作者: 中川 理
  • 出版社/メーカー: 彰国社
  • 発売日: 1996/02/01
  • メディア: 単行本


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電車をデザインする仕事 水戸岡鋭治の流儀 日本能率協会マネジメントセンター刊 [鉄道本]

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水戸岡デザイン。この言葉が囁かれるようになって久しい。それは、現代の鉄道にとって、ある種のムーブメントだ。


その、ざっくりとしたイメージは、外装としては、細い線と細い文字、渋目ながら艶のある色合いを用い、鉄道車両としては見慣れない印象に仕上げている。内装としては、木をふんだんに用い、素材を意識させる構成という感じだろうか。


しかし、この本を読むと、それは表面的なイメージに過ぎないことが分かる。
というのも、氏は本書の中で氏のデザインは、パブリックデザインであると述べ、"多くの人が集まって生活する公共空間を俯瞰する"ことで、デザインを施していると言う。


私が、本書から読み解いた俯瞰することとは、鉄道車両をデザインするだけだなく、デザインをきっかけに住民と一体となって地域を盛り上げたり、通勤のちょっとした乗車時間であっても、心地よい最高のデザインを提供するということを考えるためには、まずは状況を俯瞰しなさいということだ。
また、その結果、クライアントや、乗客の"期待値"の高いものを生み出し、全体的な関わる人々のモチベーションを上げることが大事だと読み解いた。


例えば、内装に風土が育てた素材を多用することで、"居心地の良い空間を演出しています。それは、地域活性化の目的があるからです。"ということに繋がると述べる。
つまり、風土の素材、その土地の技で加工することで、地域住民のモチベーションを向上したり、観光客に、地域性を意識させたりと、そういうことを、狙ってデザインを考えているということである。


そして、現在の"量産方式のメーカー主導型"の車両作りでは、プラスチックと鉄の多用により、商品としての個性がない。これを特注品としての個性を持たせるためには、"デザイナー主導型の車両製造"に切り替えべきと主張する。また、製造段階にデザイナーが深く関与することでコスト管理ができ、コストも抑えられるとのことだ。


氏の活動は、鉄道の地域での役割を、地域住民、鉄道会社が一体となって見直すという事を、デザインを通じてファシリテートしていると感じる。その意味で、公共デザイナーなのかも知れない。


いちファンとしては、氏が各地に蒔いた種が、今後、どう花開くのか楽しみである。


電車をデザインする仕事  「ななつ星in九州」のデザイナー水戸岡鋭治の流儀

電車をデザインする仕事 「ななつ星in九州」のデザイナー水戸岡鋭治の流儀

  • 作者: 水戸岡 鋭治
  • 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
  • 発売日: 2013/11/23
  • メディア: 単行本


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